2014年9月1日月曜日

心機能について思うこと(14)~若き循環器医へ~

院長の新しい著書で初の単著の本が9月末にでることになりました。専門書ですので、一般の方には難しいと思いますが、内科研修医、循環器研修医の先生方には、心不全をマニュアルではなく理論的に治療するための心機能を勉強する足がかりとしていただけると嬉しいです。また、開業医の先生方にも、知識のリセットになると嬉しいです。

 今日は、拡張能の中でも弛緩の話をします。

 左室弛緩を評価するときに、一番問題なのは、左室弛緩が心筋の収縮後に元々の長さと張力に戻る過程を表すだけではなく、様々な因子の影響を受けることです。左室弛緩を決めるのは主に、1) 左室心筋の弛緩、2) elastic recoil(左室の収縮能)、3) 左室後負荷、4) 左室前負荷、5) loading sequence6) 弛緩の均一性が挙げられます。

 左室心筋の収縮と弛緩は鏡面像のようなもので、収縮が悪いと必ず弛緩も悪くなります。また、左室がどれだけの距離まで収縮できるかということも重要です。バネをぎゅっと圧迫すると、離した時に慣性が働くため元の長さより長くなります。勢いよく伸びた心筋は左室の弛緩速度を速め、左室を陰圧にします。この力をelastic recoilといいます。左房と左室の圧較差を大きくすることにより、左室の充満も増強されます。左室収縮末期容積が小さくなれず、大きくなると、弛緩に要する時間が長くなります。弛緩は後負荷の影響も受けます。収縮期血圧が上がると、左室収縮末期圧が上がります。2階からものを落とすと、同じ初期速度であっても、1階から落とすより地面に到着する時間がかかるように、左室収縮末期圧が上がると弛緩時間は遷延します。実際は、左室の収縮力がいい場合はさほど影響は受けません。しかし、左室の収縮力が悪い場合は、後負荷が上がると収縮時間も延び、弛緩にかかる時間も長くなります。左室の前負荷も同様で、前負荷が増えると心収縮時間が延びるため、心不全において弛緩時間は延長します。

Loading sequenceは左室側から見た反射波の影響を示します。左室から駆出された血液の波動は、末梢の動脈の分岐部などから左室の方に反射波と返ってきますが、動脈硬化で大動脈コンプライアンスが低下すると、反射波の返ってくるスピードが速くなります。普通、反射波は拡張期に返ってくるのですが、大動脈のコンプライアンスが低下している場合左室が収縮を終わろうとする収縮末期に反射波が返ってきます。そのため、左室は休もうとしているのに反射を押し返す分余分な時間がかかり収縮時間が伸び、収縮の鏡面像である拡張時間も伸び、結果として弛緩が遷延します。

 左脚ブロックによる左室の非同期運動が、左室の収縮力を落とすことはよく知られていますが、拡張期の非同期性運動も左室の弛緩を遷延します。潜在性の心筋虚血があった場合も心拍数が高くなると非同期性運動がおこったりします。ちなみに、弛緩は速度を評価する指標が臨床上少なく時間で評価することが多いので、弛緩が悪くなるときに弛緩が遷延するあるいは延びるという言葉を使います。

0 件のコメント:

コメントを投稿