2014年9月30日火曜日

新刊書

心機能に関するこのブログを出版しないかというお話を頂き、9月25日初めて単著で医学書を出版しました。


 今まで、共著としては、今年だけでも3冊、今までに数十冊くらいあるのですが、単著は初めてです。心不全の中でも、どのように心不全を診るかに最も重要な要素の一つである心血行動態の本で、心不全の治療を若い先生に理論的に行っていただきたいという想いで書きました。

 初めて、担当編集者がつき、原稿を追われるように書かされ、といっても期限を破る自分が悪いのですが、本を作っていく過程は面白かったです。朝型なので、毎朝5時に起きて、7時まで執筆し、犬の散歩をして、通勤という毎日でした。後半に行く程時間がせかされていたので、前半に比べやや雑な感じがするのがお恥ずかしいところです。

 売り上げも好調で、発売から1週間目で、amazon.comの心臓で1位、循環器で2位、内科全般で9位、医学書全般で22位と好調で、循環器の先生方の指示していただいているのを、感謝しております。(http://www.amazon.co.jp/gp/product/484045003X)

 印税のことをよく聞かれるのですが、医学書で、循環器の専門書ですので、読者数が少ないので、売れたと言っても、しれているため、経費と出版社の利益を考えると最低限の印税です。書くのに費やした時間を考えると、対価としてはいかがなものかと思いますが、それ以上に重要なものがあります。

 自分の考えが正しいかどうかご批判頂けるという点です。それによって、また勉強して患者さんに還元できる。医師というのは、自分が賢くなるために勉強することが、患者さんの役に立つという素晴らしい仕事だと思っています。

 これからも、この知識を患者さんの心不全治療に有効に役立て、また若い先生達に指針となるよう講演や執筆も外来診療と併せてしていきたいと思います。

 12月に発売の新刊書の執筆に先週から5時起きで執筆しております。今度は、内科の先生全般に必要な知識をまとめていくつもりです。みなさまの引き続きのご支援お願い申し上げます。

2014年9月1日月曜日

心機能について思うこと(14)~若き循環器医へ~

院長の新しい著書で初の単著の本が9月末にでることになりました。専門書ですので、一般の方には難しいと思いますが、内科研修医、循環器研修医の先生方には、心不全をマニュアルではなく理論的に治療するための心機能を勉強する足がかりとしていただけると嬉しいです。また、開業医の先生方にも、知識のリセットになると嬉しいです。

 今日は、拡張能の中でも弛緩の話をします。

 左室弛緩を評価するときに、一番問題なのは、左室弛緩が心筋の収縮後に元々の長さと張力に戻る過程を表すだけではなく、様々な因子の影響を受けることです。左室弛緩を決めるのは主に、1) 左室心筋の弛緩、2) elastic recoil(左室の収縮能)、3) 左室後負荷、4) 左室前負荷、5) loading sequence6) 弛緩の均一性が挙げられます。

 左室心筋の収縮と弛緩は鏡面像のようなもので、収縮が悪いと必ず弛緩も悪くなります。また、左室がどれだけの距離まで収縮できるかということも重要です。バネをぎゅっと圧迫すると、離した時に慣性が働くため元の長さより長くなります。勢いよく伸びた心筋は左室の弛緩速度を速め、左室を陰圧にします。この力をelastic recoilといいます。左房と左室の圧較差を大きくすることにより、左室の充満も増強されます。左室収縮末期容積が小さくなれず、大きくなると、弛緩に要する時間が長くなります。弛緩は後負荷の影響も受けます。収縮期血圧が上がると、左室収縮末期圧が上がります。2階からものを落とすと、同じ初期速度であっても、1階から落とすより地面に到着する時間がかかるように、左室収縮末期圧が上がると弛緩時間は遷延します。実際は、左室の収縮力がいい場合はさほど影響は受けません。しかし、左室の収縮力が悪い場合は、後負荷が上がると収縮時間も延び、弛緩にかかる時間も長くなります。左室の前負荷も同様で、前負荷が増えると心収縮時間が延びるため、心不全において弛緩時間は延長します。

Loading sequenceは左室側から見た反射波の影響を示します。左室から駆出された血液の波動は、末梢の動脈の分岐部などから左室の方に反射波と返ってきますが、動脈硬化で大動脈コンプライアンスが低下すると、反射波の返ってくるスピードが速くなります。普通、反射波は拡張期に返ってくるのですが、大動脈のコンプライアンスが低下している場合左室が収縮を終わろうとする収縮末期に反射波が返ってきます。そのため、左室は休もうとしているのに反射を押し返す分余分な時間がかかり収縮時間が伸び、収縮の鏡面像である拡張時間も伸び、結果として弛緩が遷延します。

 左脚ブロックによる左室の非同期運動が、左室の収縮力を落とすことはよく知られていますが、拡張期の非同期性運動も左室の弛緩を遷延します。潜在性の心筋虚血があった場合も心拍数が高くなると非同期性運動がおこったりします。ちなみに、弛緩は速度を評価する指標が臨床上少なく時間で評価することが多いので、弛緩が悪くなるときに弛緩が遷延するあるいは延びるという言葉を使います。