2014年2月9日日曜日

心機能について思うこと(11)~若き循環器医へ~

そろそろ収縮能のお話をします。少し難しくなります。

臨床上、何が一番いい収縮能の指標だと思いますか。前にお話ししたように、心駆出率(Ejection Fraction:EF)は収縮能の指標としては、弱すぎますよね。

私は、左室圧容積関係を得意技としているので、左室収縮末期エラスタンス(end-systolic elastance:Ees)と言いたいところですが、私はpreload-recruitable stroke work(SW) だと思います。

心収縮能を考える時、何が重要か考えてみましょう。収縮能といったときに何を指しているのか考えないと、話が食い違っていきます。
1)心筋固有のの収縮力(myocardial contractility)、2)左室という球体としての収縮能(ventricular contractility)、3)与えられた前負荷に対してどれだけ血液を送り出せるかというと心機能(ventricular function)、4)心臓をポンプとして考えた時どれだけ血液をだせるかという能力(ventricular performance)の何を指しているか頭で明確になっていないといけません。

Myocardial contractionは単離心筋や乳頭筋を用いてどれだけ縮むかみることで求められます。

Ventricular contractilityは心カテの時に取るpositive dp/dtとか、左室圧容積関係から求める収縮末期圧容積関係(end-systolic elastance, Ees)あるいはEmaxで求められます。EesあるいはEmaxは左室前負荷、後負荷の影響を受けない指標で大変有用です。Emaxは左室圧と容積の積分値のmaxを求めるので、求めづらく最近はEesを用いるのが主流です。この指標は、左室固有の硬さを反映するので、左室の容量が小さいと大きく出るという欠点があります。拡張不全の患者においては数値はsupernormalとなります。同一個体の収縮力の変化に対しては鋭敏ですが、個体間評価においては限界があります。



Ventricular functionは、前負荷に対し左室がどれだけ力を発揮できるかという指標で、臨床的に重要な我々が知りたい収縮能というと、これが一番いわゆる左室の収縮能を反映するのではないかと思います。前負荷を変化させた時のdP/dtの変化(preload-recruitable dP/dt)か、前負荷を変化させた時のSWの変化(preload-recruitable SW)ということになります。ただ、求めにくい指標なので臨床上用いるのは極めて難しいです。しかし、この数値はかなり鋭敏に左室のventricular functionを反映します。そこで、EFやstrainやmitral annulo velocityの様な簡易なparameterで代用されるわけです。EFが悪いと言っているわけではなく、意味と限界を知って欲しいと思っております。

Ventricular performanceはSWや一回拍出量(stroke volume)で求められます。臨床上、最も必要なのはSVだというのは、個体を維持するために最も必要な心機能を反映する指標だからです。

たとえば、左室非同期運動があれば、myocardial contractionはいいですが、ventricular function/performanceは落ちています。

繰り返しになりますが、何を見ているかが重要です。


2 件のコメント:

  1. 同級生の麻酔科医の天野です
    いつも興味深く拝見しております。勉強になります。
    ここ数年、我々の業界ではSVV、(Stroke Volume Variation 一回拍出量変動)、というパラメーターがハヤリになっております。動脈圧波形の解析から一回拍出量を推測し、その呼吸性変動の大きさをモニタリングすることによって、動的な循環血液量、というか胸腔内血液量を推測し、輸液量や循環作動薬使用の指標とするものです。人工呼吸中でのみモニタリング可能です
    これは前負荷の変動で一回拍出量がFS曲線の傾きに沿って変動することが前提となるので、心機能に問題のない方ではよいのでしょうが、低心機能の場合は変化が少なくなる、すなわち見たいものを過小評価してしまうと理解していたのですが、それでいいですよね(^^;;
    この場合は結局、静的な循環血液量評価、つまりCVPなどの測定が必要になると考えています。
    話が前後しますが、SVVは、CVカテーテルをいれなくてもボリューム評価が出来るというのが売りなので、このような質問となりました。

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  2. 天野先生 コメントありがとうございます。その通りだと思います。肺うっ血がPCWP 18mmHg以上で起こるかと言えば、必ずしもそうではないので、肺うっ血が起こらず必要なstroke volumeでコントロールするのが、麻酔管理中は必要だと思います。その点SVVは臨床的な指標だと思います。CVPに関してのコメントもその通りだと思います。

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